サッカー元日本代表にして、現在は実業家として活躍する中田英寿（なかた・ひでとし）氏は、1977年1月22日、山梨県甲府市に生まれました。ワールドカップ出場、アジア年間最優秀選手に2回選出など、サッカーにおいて華々しい実績を誇った同氏ですが、その後のキャリアについては、旅人だったこと以外あまり知られていません。
実は同氏は現在、自らが立ち上げたJAPAN CRAFT SAKE COMPANYの代表取締役を務めつつ、サッカーチームのユニフォームデザイン、大手企業の商品企画プロデュース、さらに日本文化の情報発信など、幅広いビジネスに携わるやり手の実業家として敏腕を振るっています。また国際サッカー評議会（IFAB）の諮問委員を兼任するなど、サッカーの世界でも再び存在感を発揮しています。
ユースにはすべて「飛び級」で選出
中田氏は、兄の影響を受けて8歳からサッカーを始め、中学3年時には15歳以下日本代表に選抜されるなど、早くから頭角を現します。選出の理由はフィジカルの強さで、後に「中田は倒れない」とまで言われるほどの体幹の強さの片鱗を、この頃からすでに見せていたそうです。
中学卒業後は、山梨県立韮崎高等学校へ進学し、2年時には第72回全国高等学校サッカー選手権大会に出場。Jリーグへ進む時は、当時あった12チームのうち11チームからオファーを受ける争奪戦となりました。その後、1995年にベルマーレ平塚（現・湘南ベルマーレ）に所属し、プロデビューを果たします。
ユース歴としては、U-17世界選手権、U-19アジアユース、ワールドユース、オリンピック（23歳以下）などにすべて飛び級で選抜。オリンピックは19歳でアトランタオリンピック、23歳でシドニーオリンピックと、2度出場するほどの逸材でした。
アトランタオリンピックのグループリーグで日本がブラジルに勝利した「マイアミの奇跡」の際も、フォワードでスターティングメンバーとして出場し、82分までプレー。1997年に韓国との親善試合でフル代表に初招集された際は、サッカー日本代表がFIFAワールドカップ本戦初出場を決めた「ジョホールバルの歓喜」のイラン戦にフル出場し、勝利に貢献しました。
フランスワールドカップでは、日本代表は勝点0。1勝もできずにグループリーグで姿を消すこととなりますが、中田氏は3試合すべてにフル出場してチームを引っ張りました。
イタリア、イングランドを経て、ドイツW杯後に引退
フランスワールドカップでの活躍で海外のクラブに注目された中田氏は、その後、イタリアのセリエA・ペルージャへ移籍金470万ドルで完全移籍しました。
ベルマーレ所属時、ユヴェントスへ短期留学して以来、2度目となるイタリアサッカー界への参戦。そのデビュー戦は、ジネディーヌ・ジダンを擁する強豪ユヴェントスFCとの一戦でしたが、中田氏は2ゴールを奪う衝撃的なデビューを飾りました。
その後、2000年にフランチェスコ・トッティが所属するASローマに移籍し、セリエAで日本人初の優勝メンバーとなります。また同年に開催されたシドニーオリンピックでもベスト8に貢献するなど、活躍はとどまるところを知りません。
2001年にはパルマへ移籍。2002年には日韓ワールドカップに出場。2004年はボローニャとACFフィオレンティーナで活躍し、2005年はプレーの場をイングランドのプレミアリーグへ移し、ボルトン・ワンダラーズに入団します。
しかし2006年、ドイツワールドカップで3試合にフル出場するも、グループリーグ敗退。その後、日本代表だけでなく、サッカー選手としての引退も表明しました。その理由について中田氏は「怪我は無関係で、サッカーの好きな部分が長く楽しめなくなったから」と、後のインタビューで語っています。
旅人となり、世界中を巡る
引退後は見聞を広めながら自分のできることを探すとの理由から、世界中を旅して回ります。また、サッカーを通して得られたものに深く感謝しており、チャリティーマッチへの出場や、組み合わせ抽選の際にドロワーとして出席するなど、サッカー界への貢献も見られます。
このとき旅人として世界50ヵ国以上を旅し、同時にサッカーを通じた社会貢献活動が高く評価された中田氏は、世界で16人目となるFIFA親善大使に就任することとなります。
また中田氏は、世界を旅する中で日本文化に対する世界の高い評価を再認識。「多くの友人から日本について聞かれたのに、自分には答えられなかった」と己を恥じ、日本の47都道府県すべてをめぐる旅にも出ました。
「人生をかけていい」と思えたものとの出逢い
現在、中田氏は、Jリーグ時代に所属していたベルマーレ平塚のスポンサーを務めつつ、キャラメルコーンやハーベストで有名な菓子メーカー、株式会社東ハトの非常勤執行役員CBOも兼務。ハーベストのパッケージデザインや商品開発アドバイザーなどに携わっています。
中田氏は現役サッカー選手だった頃から、資金難に苦しむ古巣ベルマーレのスポンサーであり続け、また同チームのジュニアユースの公式戦ユニフォームデザインのサポートや、自身の地元を拠点とするヴァンフォーレ甲府J1昇格時のスポンサー紹介にも奔走するなど、日本サッカー界にも多大な貢献をしています。
また2015年には、株式会社JAPAN CRAFT SAKE COMPANYを設立し、自ら代表取締役に就任。日本酒を中心に、あらゆる日本文化について、作り手の情報を市場に発信し続ける活動にも取り組んでいます。
日本酒に限らず、日本文化に関するテレビやラジオ番組への出演にも積極的で、こうした活動を中田氏は「人生をかけていいとういうものがようやく見つかった」「一生続けていくライフワーク」と語っています。
